職場の近くに「今日、シベリアパンあります!」と張り紙を出しているパン屋さんがある。
夕方には「今日は完売しました!」ということが多い。
シベリアパンって何だろう?
ピロシキのようなものでしょうかと上司に話すと、笑われた。
「シベリアパンはカステラで羊羹を挟んだ菓子パンのことだよ。」
頭の中で西洋風のどら焼きをイメージしてみたが、なぜ売り切れるほど人気なのか知りたくて、出社前にパン屋に寄って購入してみた。
それは、ふわふわのカステラに固い羊羹を挟んだ西洋風どら焼きだった。
私は普通のどら焼きのほうが好きだと感じたが、はまる人にはこの食感や味がはまるのだろう。
私の前に並んだおばさんはそのシベリアパンを6つほど、かごに入れていた。
よっぽどシベリアパンが好きなご家族がいらっしゃるのかもしれない。
それとも、家に遊びに来たご友人に振る舞われるのかもしれない。
私にパンの魅力を教えてくれたのは、学生時代の友人だった。
パンとコーヒーとおしゃべりが好きな子で、パンに全く興味のなかった私を連れ出しては、様々なパン屋を一緒に巡った。
忘れられないのは、朝7:30に集まって、寒空の下、自転車で小1時間走った先のパン屋で食べた焼きたてのシナモンロールである。
生地がサクサク、ホクホクで後にも先にも同じものは食べられないと思った。
美味しいものめがけて、わざわざ足を運ぶことの醍醐味を身に染みて分かった。
「なにこれ、おいしい!」
食いつきようを見て、友人は嬉しそうにスマホのカメラを私に向けた。
必要最低限の食事しか取らない私に、食事の楽しさを教えてくれたのも彼女だった。
朝はパンとコーヒー、昼食はおにぎりを2つ、夕飯の食卓に並べるのは酒のアテばかり。
にぎる時間がなくて、リンゴをまるまる1個持って行ったときには、驚かれた。
「もっと食べることを楽しまなきゃ、人生損してるよ~。」
突然、美味しかったからとサンドイッチやケーキを買ってきてくれたり、私を誘って大学近くのパン屋さんで朝ごはんを食べ、人生相談をされたこともあった。
いつしか私も積極的にお店を探すようになり、2人行きつけの定食屋さんを見つけた。
他の学生や教授の来ない、ランチタイムにくつろぐことのできる居場所だった。
食事を二の次にして、栄養を取るだけの手段と思っていた私の考えを変えてくれた彼女には感謝している。
いまではお互いに就職して離れ離れになり、気軽に会うことができなくなってしまったが、時々、LINEで近況を報告し合う仲である。
今朝、近所の公園のベンチに、おばあさんが3人、膝をつつき合わせるようにして並んで座っていた。
真ん中の白髪頭のおばあさんの言ったことに、大きくうなずく両隣のふたり。
歳を重ねても、思い出は消えない。
おばあさんになっても、友人と、昔食べたパンの話で盛り上がりたいなあと微笑ましく思った。

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