猫の手を借りたいほど忙しいわけではないが、時々、家事の手を休めて我が家の猫の手を見てしまう時がある。
うちの子は、右前足を使って、エサ皿に残った数粒のペットフードを手前に引き寄せて、食べる。
このあいだなんか、肉球にすくって食べるのを目撃した。嘘みたいなホントの話である。
私に似て右利きかなと思っていると、顔を洗うときは、左を使う。耳の後ろまで左前足を上げて持っていって、そのまま鼻先のほうへスライドさせて下ろしてきて、舐める。満足するまでそれを繰り返す。
トイレの後は、右も左も使って迅速に糞尿を隠す。
その器用に手を使う様子を見るのが、好きだ。
週末、旦那は仕事から帰ってくると、猫の身体を目の高さまで持ち上げて、自分の顔を猫の鼻に近づけていき、パパしゅきしゅきと言いながら際限なくキスをする。
昔気質の無口な人だから、相好を崩して赤ちゃん言葉で「しゅきしゅき~」と言っているのが傍から見ていておかしい。
猫のほうはというと、迷惑そうにしていて、しばらくされるがままになっているが、そのうち両手をぴったり揃えて旦那の唇にあてる。
「ストップ!」と言っているみたいで、これもまたおかしい。
そんな器用なうちの子の手を借りられたら、仕事もはかどるかもしれないが、足の裏が濡れたり、汚れたりするのには無頓着なようで、ベランダの砂埃で黒くなった四足で家中歩き回り、かえって掃除の手間を増やされたこともある。
「器用さが売りでも、汚い手は誰も借りてくれませんよ。」と猫を抱き上げ、ベランダに出た。
今日は、遠くに見える夕日が真っ赤に輝いていた。
「ほら、赤いボールみたい。」
もぞもぞ動く腕の中を覗くと、夕日には目もくれず、しきりに右前足の肉球を舐めていた。
その手を借りることができる日は、思いのほか近そうだ。

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